千葉地方裁判所 平成3年(行ウ)21号 判決 1992年3月27日
主文
一 本件各訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
理由
【事 実】
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、その土地区画整理事業の施行地区を別紙記載のとおりとして土地区画整理事業を行うことを中止せよ。
2 被告は、前項の区域を東日本旅客鉄道内房線を挟んだ二地区に分けて土地区画整理事業を行え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告の本案前の申立て
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、被告が行う土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という。)の施行地区内に土地(千葉市《番地略》・田五二五平方メートル)を所有している者である。
2 千葉県知事が平成元年一〇月三日にした被告の設立認可(以下「本件設立認可」という。)に係る施行地区(以下「本件施行地区」という。)は、別紙記載のとおりとされているが、土地区画整理法施行規則八条一号は、施行地区の設定に関する技術的基準として、「施行地区は、道路、河川、運河、鉄道その他の土地の範囲を表示するに適当な施設で土地区画整理事業の施行により、その位置が変更しないものに接して定めなければならない。」と規定しており、この規定は、ただし書きが存するにしても、一定地域におけるまとまりのある地区を想定し、その地区を基準とした施行地区を設定しなければならないとする趣旨であると解され、施行地区を本件施行地区としてされた本件設立認可は、右施行規則に違反し、明らかに違法である。
すなわち、本件施行地区は、東日本旅客鉄道内房線(以下「本件鉄道」という。)によつて東西に分断され、二区域となつており、右鉄道の存在が施行地区における最大の障害物となつているのであつて、右鉄道によつて分断されている二区域をあえて一地区として施行地区にすることは、明らかに右規則に違反する。その上、一地区として施行地区を設定することが、公共用施設(公園、道路、郵便局等)の配置に重大な影響を及ぼし、二区域に分かれている各地権者にとつて、重大な利害が生じてくる。本件の場合、二区域に分断されている区域をあえて一地区として設定することは、それが土地の広域的な有効使用を重視したものであるとしても、二区域に分かれている各地権者にとつて決して均等な利益をもたらすものではなく、かえつて不公平・不平等が生じ、また多大な事業費の増加を招き、各地権者にその均等な負担を余儀なくさせるものであつて、二区域を二区域のままで区画整理事業を行うことこそ適切な処置であるといえるのであり、現況を無視した本件区画整理事業には多くの難点があることが明白である。
3 ところが、被告は、前記規則に違反し、しかも二区域に分かれている各地権者の利益の均等化が全くされないまま、本件設立認可を受け、本件区画整理事業を施行しようとしているものであり、このまま事業を施行されると、原告の地権者としての権利、利益が著しく侵害され、回復し難い損害を被ることになる。
4 よつて、原告は、被告に対し、施行地区を本件施行地区として本件区画整理事業を行うことを中止するよう求めるとともに、本件施行地区を本件鉄道を挟んだ二地区に分けて区画整理事業を行うよう求める。
二 被告の本案前の申立ての理由
1 原告の本訴請求のような差止請求、義務付け訴訟は、法定の抗告訴訟ではなく、まず差止請求については、法定の抗告訴訟が認められない場合に補充的に認められるものであり、次の要件が必要である。
<1> 行政庁に第一次的判断権を留保する必要がない場合
<2> 個人の救済の必要性が顕著であること、処分によつて回復し難い損害が生じること
<3> 他に方法がないこと
次に、義務付け訴訟については、次の要件が必要である。
<1> 行政庁の作為、不作為義務が裁量の余地がないほど明白であること
<2> 性質上、裁判所の判断に適する事項であり、行政庁の第一次的判断権を留保する必要がそれほどないような事柄に関する場合
<3> 他方、出訴を認めないことによる損害が極めて大きく、救済の必要性が顕著であること
2 施行地区は、組合設立認可申請にあたつての事業計画で定められる。
事業計画は、土地区画整理法二〇条の定めによつて、二週間公衆の縦覧に供されるし、更に、土地所有者等利害関係人は、縦覧期間満了の日の翌日から二週間を経過する日まで、知事に意見書を提出することができ、これを受けて、知事が内容を審査するなど事前に慎重な手続がとられ、決定される。
事業計画は、知事の認可公告によつて、組合員その他の第三者に対抗することができる。
3 本訴請求は、右のような法的性格を有する本件事業計画のうち、施行地区設定の違法を主張し、このまま事業を施行されると、原告の権利、利益が著しく侵害されると主張するが、どのような権利、利益が侵害されるのかが明らかでなく、具体的事件性、争訟の成熟性を欠き、また、前記差止請求、義務付け訴訟の各要件をいずれも具備せず、不適法であるから、いずれも却下されるべきである。
第三 証拠《略》
【理 由】
一 本件各訴えの適法性について検討するに、請求の趣旨一項の訴えは、裁判所に行政庁に対し行政上の行為の不作為を、同二項の訴えは、裁判所に行政庁に対し行政上の行為の作為をそれぞれ命じるよう求めるものであるところ、このような訴えは、行政庁に第一次的判断権を留保する必要がない場合、すなわち、前者においては当該行政上の行為を行わないこと(不作為)、後者においては当該行政上の行為を行うこと(作為)についていずれも法律上覊束されており、自由裁量の余地が残されていないため、行政庁が右不作為義務、作為義務に違反していることが明らかであると認められる場合であつて、しかも、それによつて原告に重大な権利、利益の侵害ないし損害が発生し、又は発生する危険が大であつて、裁判所の判決によらなければ原告の権利ないし利益の救済が困難であると認められる場合に限つて許されるものと解すべきである。
ところで、原告の主張する本件区画整理事業の施行地区の定め方が違法であるとの点については、右主張の内容自体に照らし、その定め方が適当であるか否かはともかく、それが明らかに違反といえるものとは到底認められず、したがつて、被告に本件区画整理事業を行うべきでないという不作為義務及び前記二地区に分けて区画整理事業を行うべきであるという作為義務のいずれをも肯定することはできない。また、本件施行地区を施行地区とする本件区画整理事業の施行によつて直ちに原告に具体的な権利、利益の侵害ないし損害が発生するとは認め難いものというべきである。
したがつて、その余の点について検討するまでもなく、本件各訴えは、いずれも訴訟要件を欠く不適法な訴えであるというほかない。
二 よつて、本件各訴えはいずれも不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河本誠之 裁判官 遠藤きみ 裁判官 平岩紀子)